ソーダ水に溺れる
色素のうすい髪が揺れる。いつもはきちんとセットされている髪が、今は目元にかかるくらいの長さまで下ろされていて。普段とはちがう、見慣れない新鮮な雰囲気に胸の奥が擽ったい気持ちになる。
「水瀬ってほんと顔はいいよね」
じい、と横顔を見上げながらため息混じりに呟いた。
「は、なに今さら気づいたの? てか性格もいーわ」
「えー、それはどうだろう……」
わざとらしく首を傾げれば、「おい、」と頭を小突かれる。
「暴力よくないってさっき言ってたひと誰ですか」
「ははっ、俺だね」
なにやってんだって思う。
いい加減じぶんでも呆れる。
男の人が深夜に呼び出す女の人なんて都合のいい女でしかないのに。深夜に本命の女の子をコンビニに誘う男なんていないのに。それをわかった上で行くあたしもあたしだ。
住宅街を抜けて角を曲がると、街灯とは比にならないくらいの明るさが視界に入る。その眩しさに思わず目を細めた。目的地まで、もうすぐだ。
「ね、あおちゃんて好きなやつとかいんの?」
「うえっ?」
夏の暑さにかき消されそうなトーンで口を開いた彼に、ぱっと視線を上げる。と同時に、わずかに上ずったあたしの声色に水瀬は笑う。
「どっから声出してんの」
「だ、だって水瀬が変なこと言うから」
頭ひとつ分高いその距離にある顔を見上げるのはなかなかつらい。首がじわじわと痛くなるのを我慢することはやめて、視線を足元に落とした。