仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「いやいや、伯爵がフローラを気に入っていただけるのであればそれに越したことはありません」
「え?」
「いやあ、毎夜毎夜皇帝陛下の晩酌にお付き合いさせていただいているのですが、いつもユーリスさまのお話になるのです。どんなに素晴らしい人かそれはそれは熱心にお話になられて、あの皇帝陛下をあれほど心酔させてしまうヒルト伯爵に嫁げるなら娘は幸せになるに違いないと思っているのですよ」
はっはっは!と豪快に笑ったアーゲイド男爵は内緒話をするように口に手を添えユーリスの耳元で囁く。
「お父上はかなりの愛妻家だったとか、きっとユーリス殿もフローラを溺愛してくれるだろうと陛下はおっしゃってましたよ。ほかにもいろいろと聞かせてもらいました。いろいろと」と含み笑いで言われユーリスは唖然としてしまった。
(あんのくそ皇帝!何を話した!?)
不敬罪になりかねない罵倒を口にしなかっただけでもほめてもらいたい。
はじめ気乗りしない様子だったアーゲイド男爵がこうも態度をがらりと変えてくるとは思いもよらず、皇帝はいったい男爵になにを話したのか想像するのも耐え難い。ユーリスは卒倒しそうなほど恥ずかしい思いがした。
皇帝に追及するのも憚られる。
きっとあの人は面白がって聞くに堪えない話をするに違いない。
その後、執務室に戻ったユーリスがとんでもなく不機嫌だったのは言うまでもない。
「ユーリス、どうかしたか? 今度はずいぶん不機嫌だな」
なにも言わずキッと睨んできたユーリスに皇帝は思わずお手上げ状態のポーズで固まったのだった。
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