仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
まるで寄り添うように立っているふたりにムッとして「なにをしている!」とまるでふたりを咎めるような言い方をしようとしていたユーリスはたと立ち止まる。
(なにを言うつもりだ?ただふたりは花を摘んでるだけじゃないか)
なにも言えず困惑していたユーリスにフローラが気づいた。
「ユーリスさま!おかえりなさいませ」
昨日のことなどなかったかのように、満面の笑みで駆け寄ってくるフローラにユーリスは放心したように彼女を見つめた。
「おかえりぃ旦那さま」
セドリックも続いてゆっくり歩いてくる。
「……ああ、ただいま。なにを、していたんだ?」
ユーリスは今自分が思ったことに腑に落ちなかったが、昨日のこともあり、気まずいながらも気を取り直して冷静にさりげなくフローラに問う。
「バラがとてもきれいなので、セドリックに頼んで少し分けてもらいました。お部屋に飾ろうと思って」
「そうか」
「あの、ユーリスさまのお部屋にも飾っていいですか?」
「私の部屋に?」
「はい、綺麗な花はあるだけで心が和みますから。お仕事でお疲れでしょうから少しでも癒されればと思って」
浮かない顔ばかりするユーリスは疲れているのだろうと思ったフローラは、ほんのりと頬を染めはにかむ。
そんなフローラに目を細めたのはユーリスだけではなかった。
セドリックと目が合ったユーリスはごほんと咳払いする。
「では、お願いしようか」
「はい!ぜひ」
嬉しそうに笑顔になるフローラにユーリスはすでに心が和む。
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