愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様

 俺の視線に気づいた父さんが、顔をしわくちゃにして笑う。
 どうやら、俺の態度に相当満足したらしい。
 クソが。
 俺は何も言わず、拳を握りしめた。
 父さんは空になったお椀を手にとると、笑いながらガレージを出ていった。 
                  
 壁に手をつけてどうにか身体を起こし、床に放っていたブレザーを雑に羽織る。鞄を肩に掛けて家のドアのそばまで歩こうとすると、違和感に気づいた。
 ――怠い。
 父さんにいじめられたせいで気分が悪くて、足がおぼつかない。

「……っ」
 ワインが胃からせり上がってきて、猛烈な吐き気に襲われる。

 慌てて家の中に入り、鞄を玄関のそばの廊下に投げ捨て、靴を脱いでトイレに駆け込む。

「うっ」
 口から一気にワインが溢れ出す。便器に吐き出したワインの匂いが、トイレに充満する。酷い匂いだ。

 ……消えない。まだワインが胃に残ってる。
 口の中に指を三本くらい突っ込んで、吐ききれなかったワインを無理にもどして、便器にぶちまける。

「うえっ……」
 胃が逆流して、腹が悲鳴を上げる。
                         
 ワインと一緒に、黄色い胃液が口から出てきた。
 気持ち悪い。最悪の気分だ。
 でも、閉じ込められてた時よりはマシだな。
 俺は洗面所に行って十回くらいうがいをしてから、鞄を持って自分の部屋に行った。
 俺は着替えとタオルを用意してから、再び洗面所にいき、服を脱いで、洗面所の奥にある風呂に入った。

「はぁ……」 
                       
 温度をぬるくしたシャワーで体を流しながら、ため息をつく。  
                   
 気持ちいい。落ち着く。生き返る。虐待の傷が沁みて痛いけど。

「うわっ」
 俺は急な立ちくらみに襲われて、シャワーの機械を落とした。
 ……熱中症になりかけているのかもしれないな。
「はぁ」
 シャワーの機械を拾い上げて、ため息をつく。
 俺は憂鬱な気分で頭と身体を洗って風呂を出ると、身体をタオルで拭いて部屋着に着がえて、ドライヤーをした。
 俺はその後、自分の部屋の中央にしいてあった布団にもぐって、声を殺して泣いた。
 声を上げたら、父さんの機嫌を損ねてしまうかもしれないと思ったから。
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