あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
今日がクリニックに行く日ではないかもしれないが、樹はギャラリーの裏口近くで和花が現れるのを待った。
小春日和とはいえ、時おり吹く木枯らしは冷たいが気にもならない。
(まるで、ストーカーになった気分だ)
こうでもしないと正面から会いに行っても岸本のガードは固そうだし、取り次いでもらえそうもない。
つまり、和花も彼と会うのを避けているということだ。
(だから、なんとしてでも和花とふたりで会うチャンスが欲しい)
樹の祈りが通じたのか、ほどなく和花と男の子が手を繋いで裏口から姿を見せた。
ふたりに続いて、少し年上の落ち着いた雰囲気の女性がその後ろから出てくる。
「和花」
「……樹さん」
いきなり真正面に現れた樹を見て、信じられないとでもいうように和花は大きく目を見開いている。
「ママだあれ?」
男の子の可愛い声に、樹は目線を下に向けた。
この前は車の中から見たから遠目で顔立ちがわからなかったが、今日はくっきりと見える。
(この子は……)
樹は頭をいきなり殴られたような衝撃を受けた。鈍い自分を呪ってやりたい。
(誰が父親かなんて、どうして考えたんだろう)
目の前の男の子は、まさに自分のミニチュアではないか。
先日のメガネの男性の子だとか、岸本の子だとか、バカなことを考えたものだ。