あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
樹が悶々とした日々を過ごしているうち、また井上から情報が届いた。
「武中さん、あれからオーナーに会えました?」
「いや。こっちは忙しいし、向こうはガードが固くてなかなか難しいよ」
「莉里さんが毎日のようにアンティークショップに顔を出してるみたいで、ひとつですが情報をゲットしました」
「情報?」
「はい。お子さんの治療で週に何回か、近くのクリニックに通ってるみたいですよ」
「クリニックにか」
和花に幼い子どもがいると知ってから、樹はずっとその子の父親が誰なのか知りたかった。
先日会った和花と一緒にいたメガネの男性がそうかもしれないと思ったが、調べて事実を知るのは怖くもあった。
「午後の診療開始時間に合わせて、二時半くらいに家を出るそうです」
「細かい情報だな」
「莉里さんがお得意様になってて、スタッフとも打ち解けてますからね」
学生なのに、どれだけ和花の店に通っているのかと樹は半ば呆れていた。
「ありがとう。早速だが、今日の報告書は井上に任せたぞ」
「ええっ! いきなりですか?」
樹は腕時計で時間を確認した。いいタイミングだ。
「午後、自由になる時間が取れるのは今日しかないんだ。井上、頼む」
「わかりましたよ、また、驕ってもらう回数が増えましたからね」
「悪いな、井上。恩にきる」