あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
和花は髪型は変わっていたが、相変わらす華奢だし顔立ちはもちろん昔のままだ。
子どもを産んだとは、ましてアンティークショップのオーナーも務めているとは思えない。
あえて言うなら、年齢を重ねた分だけ以前より落ち着いて見えた。
なにから尋ねるべきなのか、樹は迷っていた。口を開くと、和花を責めてしまいそうだったのだ。
どうして姿を消したのか、妊娠したと伝えてくれなかったのはなぜか、知りたいことは山ほどある。
だが、その答えを聞いても樹の和花への愛が変わるわけではない。
「あなたと初めて会ったのは、私が高校生の時でしたね。」
和花が思いがけず昔の話を持ち出してきた。
「そうだな」
「あれから、色んなことがありました」
和花にとって父親のことは辛い思い出だろう。それに母親も亡くしている。
「和花、あの時のことは……」
贋作事件の時のことを樹は謝ろうとした。
「もういいんです。あの時、私はあなたとお別れしたつもりでした」
樹の目を見ながら、和花がはっきりと『別れ』という言葉を口にした。
それは、樹にとって一番聞きたくない言葉だった。
「俺は、認めていない」
つい、意固地な言い方になってしまう。
「あなたは私になにも事情を話してはくれなかった。連絡しても無視されたわ」
「すまなかった」
仕事上の理由があったとしても、彼女との連絡を断ったのは事実だ。
「和花。君を拒んだわけじゃないんだ。ずっと君が欲しかった」
樹の言葉に、和花は俯いてしまった。
彼女にもあの熱い夜の記憶は残っているはずだと樹は確信した。
「俺たちの間には、互いにひかれあうものがあるはずだ」
「いいえ。私はあの日限りのことだと決めていたんです」
「俺は認めない」