あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~



***



樹との話は平行線だった。和花は次第に息苦しさを感じるようになってきた。
すぐ目の前に樹がいるだけで、和花の身体は熱を持つのだ。

思い出の中の彼より少し痩せただろうか。でもかえって、精悍な顔つきになっている。
声は記憶にあるまま、低くて甘い。あの声で耳元で囁かれたら、私は……。

(いけない。また彼しか見えなくなってしまう)

冷静にならないと、玲生の話はできない。

「今日は、お帰り下さい。お互い頭を冷やしましょう」

和花は、椅子から立ち上がった。だが樹が押しとどめる。

「和花、これからのことを話したい。あの子が俺の子ならふたりで育てるべきだ」

樹の口から『ふたりで育てる』という言葉がでてきた時、和花はゾッとした。
共同で親権を持とうとでもいうのだろうか。

「あの子にはこれから父親が必要になるはずだ」
「あの子の親権を要求するってことですか?」
「いや、俺はあの子の父親になりたい」
「え?」

声が震えてしまった。

「俺たちは結婚すべきだろう」
「え? 今なんて?」

「家族になって、三人で暮らそう」



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