あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
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樹との話は平行線だった。和花は次第に息苦しさを感じるようになってきた。
すぐ目の前に樹がいるだけで、和花の身体は熱を持つのだ。
思い出の中の彼より少し痩せただろうか。でもかえって、精悍な顔つきになっている。
声は記憶にあるまま、低くて甘い。あの声で耳元で囁かれたら、私は……。
(いけない。また彼しか見えなくなってしまう)
冷静にならないと、玲生の話はできない。
「今日は、お帰り下さい。お互い頭を冷やしましょう」
和花は、椅子から立ち上がった。だが樹が押しとどめる。
「和花、これからのことを話したい。あの子が俺の子ならふたりで育てるべきだ」
樹の口から『ふたりで育てる』という言葉がでてきた時、和花はゾッとした。
共同で親権を持とうとでもいうのだろうか。
「あの子にはこれから父親が必要になるはずだ」
「あの子の親権を要求するってことですか?」
「いや、俺はあの子の父親になりたい」
「え?」
声が震えてしまった。
「俺たちは結婚すべきだろう」
「え? 今なんて?」
「家族になって、三人で暮らそう」