あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
その時、玄関のチャイムが鳴って玲生が帰ってきた。和花は慌てて樹の腕から離れようとした。
「ママ~ッ」
いつものように、高原が玄関のカギを開けるなり玲生がリビングに飛び込んでくる。
だが部屋の中の雰囲気がいつもと違うのに気が付いたらしい。
和花の動揺が伝わったのか、見知らぬおじさんが自分たちのテリトリーを侵食したとでも思ったのだろう。
「ママをいじめるな~」
玲生はいきなり大きな声で叫ぶと、樹に突進してきた。
「玲生、違うよ、いじめられてないから」
慌てて和花が取り繕うが、それより早く樹がしゃがんで大きく腕を広げた。
「さあ、こい!」
次の瞬間に玲生は樹に抱き上げられて、ブンッと大きく振り回されていた。
「うひゃあ~」
玲生は驚いただろうに、高く抱き上げられたまま大喜びで叫んでいる。
こんなに乱暴な遊びを始めて経験したのだから、楽しくてたまらないのだろう。
高原もいつもと違う玲生のはしゃぎように目を見張っていた。
「あの、こちらの方は」
さっき出会った時から気になっていたのだろう。
高原がおずおずと尋ねると、玲生を軽々と片腕で抱いたまま樹が答えた。
「この子の父親です」
それを聞いても、玲生は『父親』がなにかわかっていない表情だ。
キョトンとした玲生に樹も気が付いたのだろう。
樹は玲生の顔を覗き込むようにして、もう一度言った。
「玲生、君のパパだよ」
その時の玲生の嬉しそうな顔を、和花は一生忘れない。