あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
和花と樹は、まだ書類の上だけの夫婦関係だ。
『あの子の父親になりたい』と言った樹がどんどん手続きを進めただけで、結婚式は挙げていないし公表もしていない。
和花はなにも言っていないのに、樹は最初から玲生をわが子と認めている。
『親子関係を証明する検査はしないの?』と和花が聞いたら、樹は不機嫌になったくらいだ。
今や彼は、マスコミにコメンテーターとして登場する人気弁護士になっている。
いきなりの結婚発表と隠し子の存在は、下手をすれば弁護士として大きなスキャンダルになる。
樹は信頼できる親しい人から少しずつ結婚したことや実子がいること伝えていくと決めたらしい。
彼の周囲では好意的に受け止められたようだが、それは樹の世界、いわゆる男性社会での話だ。
樹が非難されることはなかったが、そのかわりにマスコミでは和花のことが様々に取り沙汰された。
『恋人の出世のために身を引いた悲劇の恋人説』もあれば『子どもの存在を切り札にして人気弁護士の妻に収まった悪女説』まで、あれこれと酷い言われようだった。
特に彼を騙して関係を持ち妊娠したと決めつけられた噂には、酷く和花の心は傷ついた。