あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
そんなある日、珍しく佐絵子が和花を訪ねてきた。
昨夜、樹が大翔の仕事場に姿を見せたと思ったら『和花と結婚した』と言い残して帰っていったらしい。
「マスコミが騒いでたから、ずっと気にしてたの。でも樹さんが宣言するからホントだったんだ~って慌てたよ」
「ゴメンね。佐絵子にも内緒にしてて」
和花が佐絵子に話せなかったのは、結婚した実感がなかったからだ。
和花は、ずっと悪い夢を見ているだけですぐに終わってしまう関係のような気がしていた。
「和花の顔を見たら、なんとなく理由がわかった。樹さんと結婚したのに嬉しそうじゃないんだもん」
「佐絵子……」
「マスコミで酷いことばっかり言われてるじゃない。大翔も凄く怒ってて、昨夜も樹さんが帰ってからブツブツ言ってたよ」
「そうなんだ。ゴメンね、佐絵子たちにまで不愉快な思いをさせて」
「いいの。私は和花が心配なだけ」
「私よりも、玲生が大きくなった時に真実じゃないことまで他人から聞かされたらと思うと胸が痛むんだ」
暴走するマスコミは、もう止められないだろう。
クリスマスシーズンでアンティークショップや画廊が忙しい時期だというのに、和花の心配事は増えていくばかりだ。
マスコミ関係者や興味本位の客が増えたので、岸本は平静を装いながらも不機嫌だし樹への不信感を隠さなくなった。
和花は年末年始のお休みにはロンドンへ行きたかったが、決められずにいた。
逆に、和花が結婚したことを聞きつけたハワード一家が東京に遊びに来ようかと言ってきている。
「この騒ぎ、どうしたら収まるのかな」
和花と佐絵子はため息をつくばかりだった。