あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~



***



玲生の存在を知ってから、樹の生活は変わった。

これまでは和花ともう一度やり直すことだけを考えていたが、いきなり子どもがいるとわかったのだ。
驚きと、戸惑いと、喜びと……複雑な感情が樹を突き動かしていた。

和花と別れてから、私生活のすべてを犠牲にして仕事だけに生きてきた。
どんな女性にも心ひかれることはなかったが、今は違う。
できる限り時間内に仕事を終えて和花の元へ急ぐ。そして玲生の笑顔を見ると、仕事の疲れが吹き飛んだ。

和花が妊娠を告げてくれていたら、玲生の成長を見守れたのにと思うと残念でならない。
玲生が和花のお腹にいる時も、生まれた時もそばにいてやれなかった。

赤ちゃんの時はどんな子だったのだろう。いつ歩き出したのだろう。
和花の部屋で玲生の写真を見るたびに胸が痛むし、そうさせてしまった自分自身に後悔しかない。

和花が二度と自分から離れないように、樹はまず入籍することを選んだ。
和花を繋ぎとめることができるのは、法律でしかないように思えたからだ。

(結婚さえすれば、ゆっくり関係を築いていけるはずだ)

あれほど愛し合っていたのだから、結婚は間違いではないと思っていた。

(和花も喜んでくれるはずだ)

なんの根拠もない自信だったが、樹は和花との結婚が自分にできる最善の方法だと信じていた。いや、信じようとしていた。
マスコミの心ない騒ぎも、結婚生活が落ち着けば自然に収まるはずだと軽くみていたのだ。





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