あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています
アートギャラリーのあるビルの前に車を寄せると、後藤は先に降りて助手席のドアを開けてくれた。
「重いでしょ、僕が抱っこしましょうか?」
「大丈夫です。このままなんとか部屋までは行けそうです」
車から降りながら玲生を抱え直していたら、樹の大きな声がした。
「和花!」
樹もまだスーツのままで、車に向かって走ってくる。
「玲生が寝てるの。静かにしてください」
「ああ、すまない」
和花は今の声で玲生が起きたのではと顔を見たが、目を閉じたままだ。
「玲生くんのお父さんですか?」
後藤が樹に声を掛けた。
「あなたは?」
「玲生くんの主治医の後藤です。今夜は軽い喘息発作で受診されたんですよ。」
「喘息?」
「玲生くん、少しアレルギー体質なんです。ご存じありませんか?」
言葉に詰まった樹に『やれやれ』といった顔を見せると、後藤は車に戻っていった。
「じゃ、お大事に」
「わざわざありがとうございました」
気まずい和花と樹を残して車は走り去っていく。