あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
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樹は玲生の体質のことなど考えたこともなかった。
これまで和花とふたりで、玲生の健康や性格についてなにも話していないことに気がついた。
(迂闊だった。和花が玲生を連れて通院してると井上から聞いていたのに)
元気な時の玲生にしか会っていなかったので、通院が喘息の治療のためだったと初めて知った。
わが子なのに、肝心のことはなにも知らなかった事実に樹は打ちのめされた。
(やっと結婚したというのに、なんてざまだ)
今夜のことで、和花と正式に夫婦になれたことで柄にもなく浮かれていた心がすっと冷静になれた。
玲生を抱いて部屋に戻ろうとする和花が重そうなので受け取ろうとしたが、しっかりと抱きしめて離さない。
「樹さん、もう遅いからマンションに帰った方がいいんじゃない?」
「いや、君も疲れているだろう。今夜はずっと玲生の様子を見たい」
「そう……」
和花の表情は暗いままだ。
和花と玲生が暮らしている部屋に樹が泊まるのは初めてだ。
樹は和花の気持ちを考えて、結婚してからここに泊まることは避けてきた。
いきなり婚姻届けにサインさせてしまったのだから、彼女の中にわだかまりがあるかもしれない。
彼女の気持ちを優先しようと、気持ちを抑え込んでいたのだ。
玲生を抱いたまま歩いていく和花の後姿を、樹は言葉もなく見つめた。