あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています


樹と和花の間には、女の子が生まれた。

樹が泊まったパーティーの夜に授かったようで真莉愛と名付けられた。
樹と玲生からは、まるでお姫様のように大切にされている。

特に樹は、かつて寡黙だったのが嘘のように真莉愛に話しかけている。
時には赤ちゃん言葉が混ざってしまうので玲生にまで笑われているのもご愛敬だ。

家族みんなに愛されて、真莉愛は健康で穏やかな子に育っている。
今回のロンドンへの旅に思い切って連れて行っても大丈夫かなと話しているところだった。

「いいなあ~和花さん」
「どうして?莉里さんこそ、今が一番幸せでしょう?」

結婚が決まって、一番輝いている時期のはずだ。

「そうですけどお」

「井上さん、いい方でしょ?」
「はい。とっても優しいです!」

惚気るように言いながらも、すぐに莉里がため息をついた。

「ねえ和花さん、この幸せって続くのかしら?」

「難しいですねえ、その答えって」

莉里はマリッジブルー気味なのかもしれないと思ったので、話を聞くことにした。

「時々ケンカしちゃうし、もう無理って思う時もあるし……」

「でも、ひとつハードルを越えたら、また次の幸せがあるかもしれませんよ」

「ハードル?」

「幸せになるための、ハードルです。ケンカして、ハードルを飛び越えて仲直り。次になにかあったら、ハードルをまたふたりでエイって飛ぶんです。そのたびに幸せが増えていくって思えばいいんじゃないかしら」

< 129 / 130 >

この作品をシェア

pagetop