あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
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母の葬儀が終わってから、和花は何度か晃大と話し合っていた。
「このままだと君の才能が埋もれてしまう」
晃大は美術に関わる環境へ戻ることを、和花に強く勧めてくれる。
「ご両親もそう望んでいるはずだ」
晃大の言葉に背中を押され、和花も知らない場所で生きていこうと決めた。
自分ひとりでどこまでやれるかわからないが、日本から離れようと思ったのだ。
年が明けたらすぐに出発することになったので、和花はその前に思い出の場所を見ておこうと思い立った。
ふらりと街に出てきてしまったが、十二月の街は和花には残酷だった。
(来るんじゃなかった)
クリスマスが近いというのをすっかり忘れていた。
ひとりでマンションに籠っていたから、年の瀬が近いことなど考えもしなかった。
クリスマスソングが流れ、イルミネーションが煌めくのを見ても気持ちは湧き立たない。
せっかく気分を変えようと外出してきたが、和花は迷い始めていた
(でも、年が明けたらロンドンに行くんだし)
両親と歩いた銀座の街並みや、ずっと避けていたけれど父が大切にしていた画廊にも行ってみたい。
ひとりきりで賑やかな銀座通りを歩くのは寂しかったが、これまで気が付かなかった風景も見えてくる。
幸せそうな家族連れ、若い恋人たち。働いている人もいれば、仕事を終えて家路を急ぐ人もいる。
それぞれが大切な人や自分のために今日という時間を過ごしている。
(生きるって、こういうことなんだ)
父が亡くなってからゆとりなく暮らしていたから、なにもかもが新鮮だった。