あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
「岸本さん、相手のことよりもこれからの話をしましょう」
沈黙が絶えられなくなったのか、万里江が口を挟んだ。
「あ、ああ」
まだ晃大の口は重い。
「和花は、ひとりで産んで育てていく覚悟だわ」
「……だろうな。そういうところ、母親に似て頑固なんだ」
なんと言われても、和花はこの気持ちを変えることはできない。
「晃大さん、ごめんなさい。せっかくロンドンで暮らせるように手配してくださったのに」
「いや、それはいいんだ」
妊娠した以上、帰国するしかないと思った和花は晃大に詫びた。
「え? 和花、あなた日本に帰るつもりなの?」
「勉強するために来たのに、こんなことで皆さんにご迷惑かける訳にはいきません」
万里江は驚いたように和花を見た。
「だから、私たちに遠慮しなくていいって言ったでしょ」
「万里江さん」
「万里江・ハワードが付いてるわ。こっちで産みなさい」
万里江は和花の手を優しく包んでくれた。
気が付かないうちに、和花は両手を指が食い込むくらいに強く握りしめていたのだ。
「いいんですか?甘えてしまって」
「いいの。今度こそ、奥村さんへの恩返しが出来るわ」
にっこりと、頼もしい笑顔で万里江が笑った。