あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
「働きながら元気な子供を産んで、こっちで育てればいいじゃない」
和花は万里江の言葉に勇気付けられた。彼女がそばにいてくれたら、怖いものなどなさそうだ。
「ありがとうございます! 出産まで、いえ、ずっとこのまま万里江さんと一緒に働かせて下さい!」
「いや、和花ちゃん働かなくても僕が……」
万里江と和花がどんどん話を進めていくので、晃大は焦って口を挟んできた。
「岸本さん、はっきり言わないと伝わらないわよ」
「万里江さん、それだけは言わないでください」
晃大が珍しく不機嫌そうな顔を見せたが、和花は妊娠や出産の話しをしたことで気分を害したのかと謝った。
「すみません。晃大さん、こんなことになってしまって」
「和花ちゃん、命を授かったことを謝っちゃいけないよ」
優しい顔を和花に向ける晃大に、万里江はため息をついた。
「しょうがない人ねえ。せっかくのチャンスなのに」
万里江は小声で愚痴をこぼしたが、和花には聞こえなかった。
今の彼女には、お腹の中に宿った命のことしか考えられないのだ。
(この子のために)
一生懸命勉強して、自分のお店が開けるくらいに働こう。
もっともっとアンティークのことを覚えて、ロンドンで子どもとふたりで生きていこう。
和花は新しい夢に向かって、胸が高鳴っていた。