あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~


樹は改めて和花を探す。

会場はそれほど広くはないが、招待客たちはグループになったり離れたりと交流を深めるのに忙しそうだ。
ようやく見つけたと思ったら、和花は日本人女性と外国人男性のふたり連れと話しこんでいる。
その個性的な女性には、なんとなく見覚えがあった。

(あのヘアアスタイルとメイクは、確か……)

いつか、ノッティングヒルで井上が見せてくれたホームページの女性だと気が付いた。
余りにも印象的だったから覚えていたのだが、確かMの付く名前だった。

(この店のMは、『まどか』のMではないのか?)

オーナーは和花だとばかり思っていたが、ノッティングヒルでアンティークショップを経営している個性的な女性もこの場にいる。
久しぶりに会った和花の周りが、急に謎めいてきた。
樹は壁際に佇んだまま考え込んだ。

どうやって、銀座の父親の画廊を取り戻したのだろう。
母親が亡くなった後、どうやって暮らしていたのだろう。
やはり、四年前にノッティングヒルで見かけたのは和花だったのだろうか。

じっと彼女だけを見つめていたら、和花の側にいた長身の男性が樹に気付いたようだ。
彼が樹に軽く会釈をする。樹も軽く頭を下げた。

(俺を知っているのか?)

和花の関係者で、樹の知っている人物に思いを巡らせる。
樹は必死に記憶を辿る。なんでもいいから、今の混沌とした状況に繋がるヒントが欲しかった。

(画廊……奥村家の関係者……和花と年が近い男性……)

確か和花の母親の葬儀にもいた、母方の親戚で画商の岸本晃大だ。
和花がいつも『晃大さん』と呼んでいたのを思い出す。

以前より白髪が少し増えた長めの前髪は、独特の雰囲気を醸し出している。
温和な表情で、ずっと和花のそばから離れない。

(どうして彼が和花の隣にいるんだ?)

そこは、樹が喉から手が出るほどに欲しい場所だった。





< 74 / 130 >

この作品をシェア

pagetop