あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
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樹の視線を感じながらの接客は、かなり神経を使うものだった。
だが、それでくじけそうになる和花はもういない。
妊娠がわかってからも、和花は万里江の秘書やアンティークの勉強を続けてきたのだ。
(もう以前のなにもできなかった頃の私とは違うんだ)
今の和花には自信もあるし、なにより守るべき存在がある。
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和花はノッティングヒルにある万里江が経営するアンティークショップでたくさんのことを学んだ。
細かい書類仕事が苦手だった万里江は店の収支決算をいつも先送りしていたので、和花が手伝い始めてからはハワード家の会計士からも喜ばれたし、日本語と英語が堪能だったので任される仕事量も増えていった。
妊娠後期からは、ひとり暮らしは心配だからとハワード家に同居させてもらったくらいに一家とは親戚のような関係になっていた。
そして九月に入って、和花は無事に出産した。
妊娠中にもトラブルはなかったし出産も初産にしては楽だったので、万里江に自分のお産がいかに大変だったか愚痴られてしまったくらいだ。
生まれたのは男の子で玲生と名付けた。イギリスで生きていくのに呼びやすい名にしたつもりだ。
勉強と仕事と育児に追われる和花を助けてくれたのが、ハワード家のメイドのジョアンナと晃大だ。
晃大は、樹との子どもだという事実は抜きにして和花と玲生の生活を何よりも大切にしてくれたし、ジョアンナは生まれた時から気管が弱かった玲生を心配して、風邪をひかないようにといつも気を遣ってくれていた。
それに万里江の息子のセドリックとチャールズは玲生にいつもくっついて、まるで弟のように可愛がってくれた。
(父親がいなくても、玲生や私を心配してくれる人はこんなにたくさんいるんだ)
和花は、自分と玲生を支えてくれている人たちに感謝しながら勉強を続けた。