あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
「わかった。あとでね」
納得してくれたのか、万里江がニヤリと笑った。
和花もロンドンで経験を積んできたし、なにしろ母親になったのだ。
この店のオーナーとして、大勢の客の前で取り乱すわけにはいかない。
和花は樹に視線が向きそうになるのを必死でこらえて、微笑を浮かべたまま招待客の相手をし続けた。
ただ、樹の近くにいた若い女性も気にかかっている。
(彼の恋人だろうか)
そんなことを詮索できる立場ではないとわかっていても、つい考えてしまう。
(こんなことでは、オーナー失格だわ)
和花は、ロンドンで万里江に鍛えられた日々を思い出す。
妊婦だろうと、乳飲み子を抱えていようと容赦はない。
プロフェッショナルを目指すために、万里江の指導は厳しかった。
アンティークの勉強はもちろん、階級社会のロンドンでの礼儀作法も大きなお腹になるまで続いた。
万里江自身がそうやってふたりの子を産んだだけあって、容赦はない。
玲生を産んでからがもっと大変だった。万里江の指導の下、乳飲み子を抱えて勉強は続いた。
父から美しいものや価値のあるものを見せられてきた和花は、ぐんぐんと力を付けていった。
アンティークの知識も増えていたし、共同経営者を名乗る以上は恥ずかしい真似はできない。
自分では気が付かないうちに、和花は女性としてひと回り成長していた。