あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
「おやおや、ご機嫌悪いですねえ」
後藤の第一声は、のんびりとした調子だった。
「いやだ~、帰る~」
玲生は和花の膝の上で大暴れだ。泣くと余計に咳き込むので、和花もお手上げの状態だった。
「外遊びから帰ってから急に咳き込みが激しくなって、この調子なんです」
「元気はあり余ってますがねえ」
メガネの奥の優しそうな視線を感じたのか、玲生が少し大人しくなった。
そのタイミングを見計らって、後藤は丁寧に玲生を診察してくれた。
触診も優しい手つきで、玲生も嫌がらない。
その合間には、和花の細かな質問にもよく答えてくれた。
シッターの高原が勧めてくれる訳だ。
子供の扱いも上手だし、母親の小さな不安も解消してくれる。
あやすように診察をしているうちに、すっかり玲生の機嫌は直っていた。
「環境が変わって、玲生君はストレスが溜まってたんですね」
ロンドンから東京に引っ越してきて間がないことを和花が話すと、後藤はうんうんと頷いた。
「お母さんが気にしてはダメですよ。彼にとって生きていくのに必要な試練ですから」
オーバーな表現だが、後藤は大真面目に話している。
後藤は環境に変化があったり病気に罹ったりすることは、子どもが生きていくうえで大切な経験だという。
これから大きくなっていく玲生にとって避けられないものばかりなのだろう。
「奥村さんも玲生くんと一緒に経験を積んで、お母さんとして育っていくんですよ」
「そうなんですね……」
「玲生くんはお母さんと生きる方法を学んでいくんです。これから、元気に育っていきますよ」