あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~



オープニングパーティーに彼が姿を見せた時から覚悟はしていた。
樹の性格ならもっと早くに訪ねて来ると思っていたのだが、もう大丈夫だと思っていた矢先だった。

あの日、和花はなにも告げずに姿を消したのだから、樹にも言いたいことがあるだろう。
罵られるか事情を説明しろと責められるかはわからないが、いつかは会わなければいけない人だ。

(でも、今日は病院に行かなくちゃ)

今は樹と自分のことより、玲生をクリニックに連れて行く方が優先だ。
和花は迷ったが、樹の目に触れないように玲生と出かけることを選んだ。

「玲生、かくれんぼみたいにそっとお外に出るよ」
「わ~い、かくれんぼ?」

「だから鬼さんに見つからないように、お口を閉じて静かにしてね」

和花は従業員用の通用口のある裏通りにタクシーを呼んだ。
エレベーターで一階に降りたら、そこから外へ出れば樹にもわからないだろう。

和花は玲生と手つないで部屋から出た。

「ママ、シーッだね」

和花を見上げながら人差し指を口に当てる玲生は、樹にそっくりだ。

このまま玲生の存在を黙っているのが正解なのか、早急に樹にあって話し合うべきなのだろうか。
玲生が大きくなってから真実を話す方がいいのかとも思ってしまう。

今すぐ樹に会うには勇気が足りなくて、和花は戸惑いの中にいた。



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