あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
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(クリニックに来てよかった)
和花は玲生の調子がよくなってきたと後藤から言われてホッとしていた。玲生は処置室で吸入を受けている。
「和花さんの方が、病人みたいですねえ」
後藤がヒョイと診察室から顔をのぞかせた。待合室に座っていた和花の顔色を見て、心配になったのだろう。
「お母さんが元気じゃないと、玲生くんが心配しますよ」
「すみません。ちょっと、考え事をしていまして」
「お話を聞くくらいなら、僕でもお役に立ちますよ」
身軽に待合室の椅子に腰かけた後藤は、和花に笑顔を向けている。
和花はその優しさに頼って、つい後藤に尋ねてしまった。
「子どもには、両親が揃っていた方がいいんでしょうか?」
唐突な和花の質問にも、後藤は平然としている。
「私ひとりの判断で、玲生から父親を奪ってしまったようなものなので」
「ああ、なるほど……」
後藤は少し思案するような表情を見せた。なんとなく口ごもる和花の様子から事情を察したのだろう。
「難しい問題ですね」
「はい」
和花が頷くと、ゆっくりと後藤が話し始めた。
「僕は仕事柄、とてつもない数の家庭、つまりお父さんやお母さんとかそのほかのご家族の方々と会ってきました」
「ええ」
「結論から言うと、正解はわかりません」
後藤はあっさりと言い切った。
「正解?」
「どんな家族の形が子どものためになるか、僕にはわかりません」