あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~


和花が悩んでいることを知って、後藤は気を遣ってくれたのだろう。
彼が診療時間内にクリニックから五分足らずでも外に出るのは珍しいことだ。
隣のビルにあるコンビニまでのほんの少しの距離でも、一緒に歩いている玲生は大喜びしている。

玲生を中心に、後藤ドクターと和花がその左右を歩く。
まさに、親子のポジションだ。

(もし、樹さんに妊娠したことを話していたら)

子どもができたことを告げて、もし結婚していたらこんなふうに歩いていたのだろうか。
それとも、子どもは欲しくないと彼は和花を拒否しただろうか。

樹とつき合っている頃は、将来子どもが何人欲しいかなんて話したことはなかった。
結婚したいと思っていたはずなのに、自分たちの幸せばかりを考えていたのだろう。

今思えば、過去の樹との思い出のすべてが夢の中の出来事だったような気がする。

「また、ひとりで抱え込んでますよ、和花さん」
「あ、すみません」

後藤のお茶目な声に、思わず笑ってしまった。
玲生も後藤といることが嬉しいのか、ずいぶん楽しそうだ。
そんな三人の姿を車の中から樹がじっと見ていたことに和花は気付きもしなかった。



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