恋の駆け引きはいつだって刺激的【完結】
触れられた場所が熱い。
慣れないことをされたせいで言葉がうまく声にならない。

「ねぇ、この手、離して」
夏希君の手に自分のそれを重ねた。怖さはなかった。
彼の手は千秋さんとは違って冷たい。

「離してほしいなら教えて」
「何を?」
「桜子は恋愛する気、ある?」
「…え、ないよ。だって…私…男の人苦手で付き合ったこともないし」
「…」

夏希君は知っている。私の母のネグレクトも…そして、その交際相手が私にしようとしてきたことも、全部知っている。
多分それを知っているのは葉月と夏希君くらいだと思う。

「あの時桜子のそばから離れたことずっと後悔してた」
「…」
「急に桜子の前から去ったのは親の転勤でもなくて、親の反対だったんだ。うちの親は桜子と会っていること裏で調べてたみたいで」
「そうだったの?」
「そう。世間体を気にする両親だったし、わざわざ金持ちの集まる私立に入学させたのになんでそんな子と遊ぶんだって」
「…」

胸が痛い。ご両親が悪いとは思わないけれど、私自身を否定されているようでなんだかつらかった。あの頃はがむしゃらに、ただ生きることに精一杯だった。

「俺は忘れたことなんかなかった」
「…夏希君」
「今でも桜子が好き」
「…」

こんなに至近距離で見つめ合って、なのに目を逸らすことが出来ない。



と、その時。
ガチャっとドアが開く音が響いた。

「ただいま、…って、え?」
「あ、千秋さん、」

まだ夕方なのに千秋さんが帰宅した。
私は瞬間的に立ちあがったが、今の…見られてしまっただろうか。



< 50 / 282 >

この作品をシェア

pagetop