白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 やんわりと首を振って答える。


 直接聞ける勇気があれば、逆に未練もすぐに断ち切れたのだろう。

 婚約の解消も、もっと早くに行われていたかもしれない。

 でもそれは願望の混じった仮定だとも分かっている。


 どうしてクロードに愛されているのが自分ではなくレミリアなのか。

 今と同じことを、今とは違う理由で嘆き悲しむだけだろう。

「君たちは、第三者も交えてお互いのことをしっかりと話し合うべきだった。君も、クロード様も、傍から見ていると何をやっているのかと正直思うよ」

 いつになく厳しい口調のダヴィッドに何も言うことができなかった。

 彼の言うことはもっともだ。


 クロードだけが悪いわけじゃない。

 ロゼリエッタだけが悪いわけでもない。

 クロードは言えなかった。

 ロゼリエッタは聞けなかった。


 方向は違えど、話し合って歩み寄るという手段を二人共が選ばなかった。

 だから婚約を解消するに至ったのだ。

「いや……。ごめん。君たちの問題なのに、踏み込みすぎだね」

「いいえ。ダヴィッド様の仰ることは事実ですから」

「うん、それでも、ごめん」

 埒が明かない雰囲気になりそうなのを、ダヴィッドは「まあ、それはさておき」と無理やりに切り替えた。

 今度は優しい声で諭すように告げる。

「君がクロード様の為に強くなろうと決めた本当の理由は分からないし、だからと言って聞かないよ。でもね、ロゼ。ほんの少し勇気を出した君だけが、彼を助けてあげられるんだ。どうかそのことには自信を持っていて欲しい」

< 216 / 270 >

この作品をシェア

pagetop