白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 予想通り、こげ茶色の柔らかな髪を短めに切った青年が立っていた。

 母方の従兄のダヴィッドだ。ロゼリエッタより四歳年上で、彼もまた実の妹のように可愛がってくれている。良く見知った相手にロゼリエッタは安堵を覚え、心が少し軽くなった。

「ごきげんよう、ダヴィッド様」

 ドレスの裾をつまんで挨拶をすると、ダヴィッドも軽く腰を折って応えた。それから、親しみのこもった褐色の目でロゼリエッタを見つめる。

「珍しいねロゼ。一人で来たの?」

 当然の疑問に、けれどロゼリエッタの胸がちくりと痛んだ。ダヴィッドから見たらロゼリエッタが一人佇んでいるようにしか見えないのだから無理もない。

 何もクロードと仲違いをして別行動を取っているわけではないからと、ふとした弾みで傷つきそうになる心を懸命に守りながら笑顔で答える。

「いいえ。今日はクロード様と参りました」

「今は?」

「クロード様は、レミリア王女殿下と大切なお話があるそうです」

 脳裏に、決して結ばれることはないけれど、並ぶだけで絵になる二人の姿がまざまざと浮かんだ。

 美しい王女と忠実な騎士は恋物語の題材として、とても人気がある。レミリアに婚約者がいなければ、お似合いの二人だと口々に称賛を受けていたに違いない。

「ああ、西門で何か騒ぎがあったらしいから、それでかな」

「殿下もそのようなことを仰っていました」

 ダヴィッドの耳にも入っているのなら、よほど大きな騒ぎだったのだろうか。危険な状態になっていなければいいけれど、と今さらながらクロードの身が心配になった。

 自分の気持ちばかりを優先させようとしていたことに自己嫌悪が沸き上がる。どんどん心が醜くなって行っているのを実感するのは、とてもつらいことだった。

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