白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「王女殿下の護衛騎士だから仕方ないとは言え、せっかく一緒に来たのに寂しいね」

「そう、ですね」

 言葉の意味を噛みしめるように呟けば、胸にすとんと何かが落ちた。

 寂しいと思うこと自体は許されることなのだ。ロゼリエッタは自分の気持ちを正当化してもらえた気がして、初めて嬉しい気持ちになった。

「ダヴィッド様はお一人なのですか?」

「俺はこの手の場はお嫁さん探しに来てるからね」

 成人を迎えた侯爵家の跡取りだと言うのに、ダヴィッドは未だ婚約者を決めてすらいなかった。女性と全く縁がないようには見えない。以前の夜会ではどこかの令嬢をエスコートしていた姿を見た覚えがある。

 でも、その女性とのその後に関しては、少なくともロゼリエッタは知らない。よく分からないけれど誰とも婚約関係を結んでいないということは、そういうこと(・・・・・・)ではあるのだろう。


 一途な恋に悩んでいたり、遊び歩いていたりするそぶりも見受けられない。そもそも侯爵家を継ぐつもり自体がないようだった。

 もちろん跡を継ぐに相応しくないほど出来が悪いわけではない。彼の両親がやる気のなさをロゼリエッタの両親に嘆く姿も何度か見ていた。

「そんなこと仰って、本当は探す気なんてないのでしょう?」

「まあね。一人が気楽でいいよ」

「ダヴィッド様ったら」

 悪びれもせず言い放つダヴィッドに、ロゼリエッタの唇が自然と笑みの形を描く。そこでダヴィッドは給仕係を呼び留め、赤ワインの入ったグラスを受け取った。飲み物の入ったグラスが並んだトレイを指し示し、ロゼリエッタに尋ねる。

「何か口にする?」

「いえ大丈夫です。飲み物を先程いただきましたから」

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