白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 やんわりと断るとダヴィッドは大げさな身振りで肩をすくませた。この場にはもう仕事がないと判断し、給仕が一礼して立ち去るのを見届けてから口を開く。

「最近の社交界は輪をかけて華奢で食の細い貴婦人が美徳とされているけど、君の場合はもっと食べて太った方がいいんじゃない」

「そうでしょうか」

 ロゼリエッタは小首を傾げ、自分の身体を見下ろした。

 肉づきが悪い自覚はある。それが第三者にもそう見られているということは、やはり健康的な魅力がないということなのだろう。

「そうだよ」

 ダヴィッドは深く頷き、グラスの中の赤ワインを煽った。瞬く間に空になったグラスを持ったまま両腕を組んで口角を上げる。

「じゃないとほんの少し触れただけで壊れてしまいそうで、クロード様も抱きしめたくても抱きしめられないと思うよ」

「だ、抱きしめるだなんて」

 ロゼリエッタは頬を染めた。

 だけど、はしたないと思いながらもダヴィッドが差し出した甘い誘惑の果実を一口(かじ)ってしまった。

 クロードが抱きしめてくれたら、どれだけ幸せな気持ちになれることだろう。そんな想像が脳裏をよぎる。

「今のロゼの、守ってあげたくてたまらなくなるところもとても魅力的だけどね」

「ダヴィッド様は少しお会いしない間にまた口がお上手になったのね」

 今のロゼリエッタでも魅力的だと言ってもらえるのは、たとえ嘘であっても嬉しい。

 ただその言葉をいちばん言って欲しい人に言ってもらえないことは寂しいけれど、口の上手い従兄の軽口にロゼリエッタは今夜初めて心から笑った。

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