白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 侍女の開けた扉から奥の部屋に入る。途端に覚えのある甘いバラの香りがして、確かにレミリアがいるのだと思った。

「急に呼び出してごめんなさいね」

 二人きりになるとソファに腰を下ろしていたレミリアが立ち上がり、歩み寄って来た。足元に視線を落としていたロゼリエッタは顔を上げ、淑女の礼で以て応える。だけど目が合わないように、バラ色の唇の辺りを見るのが精一杯だった。

「――ロゼ」

 レミリアは両手を伸ばし、ロゼリエッタの頬を包み込んだ。

 合わせたくなくて彷徨わせていた視線が重なる。けれどすぐにロゼリエッタの心が悲鳴をあげた。弱々しくかぶりを振り、逃れようともがく。

「ロゼ……。ごめんなさい」

 いつかクロードがそうしたように、レミリアもロゼリエッタの身体をそっと抱きしめた。そうして、やはり彼女もまた、ごめんなさいとひたすらロゼリエッタに詫び続けるのだ。


 ロゼリエッタが心を寄せる婚約者であるクロードも、そして彼が愛するレミリアも、とても優しい。

 でも、同じくらい残酷だった。

 彼らはきっと、その優しさこそがロゼリエッタを傷つける、いちばん残酷な行為であることに気がついてはいないのだろう。


 ロゼリエッタは身じろぎもできずに、ただぼんやりとシャンデリアを見つめた。

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