白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

12. 拭われることのない涙

 ロゼリエッタを抱きしめたままのレミリアが、ゆっくりと深く息を吸ったのが伝わって来る。それから腕にわずかな力が込められた。

 波打つ心を落ち着かせ、現実と向き合う覚悟を決める必要があるのなら、それはレミリアではなくロゼリエッタの方だろう。けれどロゼリエッタは短期間に様々なことが起こりすぎて、半ばもう諦めの境地にいた。

「ロゼ」

 懺悔を捧げる相手を確認するようにレミリアが名を呼ぶ。何でしょうか、と我ながら驚くほどに冷静な声が答えた。また大きな呼吸の音が聞こえ、レミリアは言葉を静かに紡ぎはじめる。

「私がクロードに隣国へ行くよう命じたの。真面目な彼はそれを断れなかった。断れないと知っていて命じたの」

 今さらそんな、分かり切ったことなんて聞きたくもない。謝罪の言葉もロゼリエッタが要求したわけでもなかった。それを得たところで、ロゼリエッタには何も残らないことには変わりがないのだ。


 だって謝るくらいなら、婚約を解消しなければ良かった。

 危険と分かっている場所に、クロードを行かせなければ良かった。


 何より、ロゼリエッタを一緒に連れて行こうと思ってはもらえないことを、ロゼリエッタでは引き留められないことを、まざまざと何度も突きつけて来る。

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