きみは溶けて、ここにいて【完】
口に出す気は到底なかったけれど、無責任だ、と森田君を少し責めるような気持になった。
だけど、そりゃあ本人であって本人ではないのなら、森田君には責任がないのかもしれない、と思い直す。だめだ。頭がこんがらがっている。
森田君は、平然とした顔で、また笑顔を浮かべた。動揺しているのは私だけで、その温度差は、春の季節には、なんとも合っていなくて。
「そういうことだから、よろしく、保志さん」
そう言って、森田君が立ちあがる。
あ、と思ったときには、もう背を向けられていた。こういう小さな強引さも、彼が大きな円の真ん中にいる秘密なのかもしれない。
そんなことを心の片隅で思いながらも、あの、と、中庭を出て行こうとしていた彼を引き留めてしまう。
「その、……どうして、私なのかな?」
森田君は人気者だ。周りにはたくさんの人がいる。私なんかに、頼まなくても、もっとふさわしい人がいるのではないかと思った。そりゃあ、皆、森田君の中にもう一人の森田君がいるとなると、驚いてしまうと思うけれど。
少し離れたところで、振り返るようにこちらに顔だけを向けた森田君に、「森田君は人気者だから、私なんかに頼まなくてもいいのにって、思うんだ」と、慎重に言葉にした。
森田君は、いつものように笑わずに、首を横に振った。
「保志さんじゃないと、だめなんだ」
強い声だった。森田君自身も、自分の声に驚いたようにハッとして、それから、身体ごと私に向き直った。