きみは溶けて、ここにいて【完】
「……保志さんは、断らないだろ」
「………」
「イエスマン、だから」
イエスマン。保志 文子は断らない。
それは、そんなに有名になことなのだろうか。
まさか、森田君にまでそんなことを言われるとは思わなかった。ほんの少し、傷ついてしまう自分がいた。そうか、イエスマン、とも呼ばれているのか。また、自分の都合のいい輪郭に気づかされる。
「……そうだね、うん。わかった」
私じゃないとだめなのは、きっと、絶対に断らない相手に依頼したかったから、というこのなのだろう。
罰ゲームじゃないだけよかった、と思い込む。イエスマン。傷つけないなら、それでいい。
だけど、森田君の頼みごとを、どうやって引き受ければいいのかはいまだに分からずじまいだった。気まずい沈黙の果てに、森田君は、複雑な表情で苦く笑い、「じゃあね」と、私にまた背を向けた。
もう、引き留めることもできなかった。
遠ざかっていく。地面に書かれた、影、よう、それらの文字と、私だけを残して森田君は中庭からいなくなった。
うす暗い中で、花壇に咲くデイジーがさわさわとささやかに揺れている。私は、花壇に座ったままでいた。『もう一人の俺と、仲良くなってほしんだ』、何度も、頭の中で森田君の声を再生させる。
「……でも、本当に、どうやって?」
生温かい春の風が頬をかすめる。
呟いた声に返事をしてくれる人は誰もおらず、しばらく私は、途方に暮れていた。