きみは溶けて、ここにいて【完】




 これは、本当に森田陽という人間なのだろうか。途中で何度かそう思って、森田君が、自分だけど自分じゃないと言っていたことを思い出した。


 「ごめん」がたくさん登場する、少しネガティブな文章。


それでも、本当にこれを書くのに時間をかけたんだと分かって、森田 影君という存在が、便せん一枚ほどの重さだけ、不思議な質量をもったような気がした。


 まだ、半分は信じられていない。

いや、やっぱり、半分も信じられていない。


だけど、便箋を封筒にしまって、もう一度、差出人の「森田 影」の筆跡をみたとき、なんだか本当にこれは現実で、森田君の中には影君という人がいるということを、誰かのためにとかではなく、自然と受け入れなければいけないと思っている自分がいた。


疑ったままでいたら、森田君だけではなく、影君にも失礼な気がして。断らなかったことに責任を持たなければならないと思った。



 トイレの個室から出て、教室へと向かう。余裕をもって登校したのに、席に着いた時には、ホームルームが始まるぎりぎりの時間になっていた。


森田君は、すでに教室にいた。またいつもと同じように、皆に囲まれて笑っている。とてもじゃないけれど、「僕は駄目だ」なんて、言いそうにはない。


それに、森田君は確か自分のことを「俺」と呼んでいた気がする。

まるっきり違う性格が、おんなじ身体に入っているなんて、やっぱり不思議だ。喧嘩しないのかな。きっと、森田君が勝ってしまう気がする。

影君になる時間はきまっているのかな。自分じゃないときの、記憶はどうなるんだろう。



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