きみは溶けて、ここにいて【完】
本当の意味で信じることにしたら、たくさん知りたいことがでてきてしまって、困った。
手紙の返事で、傷つけないように、じっくり言葉を選んで、聞いてみようと決める。
それに、森田君、あんまり寝不足にも見えないけれど。自分の席で、じっと彼を見てしまったら、不意に視線が合って、慌てて目を逸らした。
私の方が、駄目だ、と思う。
今のは絶対に感じ悪い目の逸らし方だった。たった今の目の逸らし方を反省していたら、久美ちゃんが私の席にやってきた。
久美ちゃんには、森田君のことなんてとてもじゃないけれど相談できない。
黙っていてほしい、と言われたわけではないけれど、なんとなく、森田君と影君のことは秘密にしていなければいけないと思った。
久美ちゃんの手には世界史のワークがあって、ちょっとだけ嫌な予感がする。
「文子ちゃん、遅いよー」と言われて、咄嗟に、「ごめんね」と、謝る。謝ることじゃなくても、私は、謝る。
もう少しでホームルームの開始を告げるチャイムが鳴りそうだけど、久美ちゃんは、私に手のひらを見せて、へらりと笑った。
「宿題やるの忘れちゃった。見せてくれない?」
嫌な予感は的中だった。
世界史はそんなに得意ではないし、合っているのか分からない答えを人に見せることが私は嫌だった。
それに、時間をかけてやったのに、あっという間に、写されてしまったら、その時間まで台無しになってしまうような気がするし、何よりも、答えを見せることは、久美ちゃんのためにはならないと思っている。
だけど、それらの気持ちを、どう伝えたらいいのか分からなくて。どう伝えても、分かり合えないことが世界にはたくさんあるんだって、もう十分知っているから、結局、へらりを笑い返して「いいよ」と言って、世界史のワークを久美ちゃんに渡した。