きみは溶けて、ここにいて【完】
久美ちゃんが唇を震わせる振動が耳朶にあたる。
「……鮫島君のこと、好きだったりする?」
予想もしなかった名前があがって、拍子抜けした。
小さな声で、「嫌いではないけど、恋はしてないよ」と答える。
途端に、久美ちゃんの顔に安堵の色が広がった。それで、気づく。そっか、久美ちゃんは、鮫島君が好きなんだ。
恐る恐る、「……好きなの?」と聞いたら、久美ちゃんは、恥ずかしそうに頷いて、少しだけ頬を染めた。
鮫島君は、森田君のグループにいる男の子で、あんまり大きな声で騒いだり、笑ったりすることはないけれど、頭がよくて、かっこいい人だ。
森田君のグループにいる人たちは、皆人気者。
鮫島君もその一人である。
最初こそ、自分が森田君を見ていたことがばれていないことにホッとしていただけだったけど、久美ちゃんが彼のことを好きだと分かり、私の中でじわじわと複雑な気持ちが膨らんでいった。
恐らくだけど、鮫島君には恋人がいる。
前に一度、隣のクラスの女の子と手を繋いで帰っていくのを見たことがあった。
放課後、園芸部が使っている苗やプランターを保管する倉庫にいたとき、たまたま学校の裏道に向かって二人が歩いているところを見てしまったのだ。
幸せそうに顔を見合わせて笑っていた。きっと、今もまだ、付き合っているんだと思う。
久美ちゃんは、知らないのだろうか。