きみは溶けて、ここにいて【完】
久美ちゃんが、鼻を啜る音がすぐ傍でした。
久美ちゃんの方に向き直る。「ごめんね」と、結局、久美ちゃんに対しても、口から謝罪の言葉が零れ落ちる。
そうしたら、久美ちゃんは、「文子ちゃんに、謝られても意味ないよ」と、涙声で呟いた。
頷いたら、心臓は罅われたように、つきんと痛む。
もう一度だけ、鮫島君の方を確認してしまう。
すると、今度は、鮫島君ではない男の子がひとり、じっと私たちの方を見ていた。
―――森田君。
笑っていなかったから、一瞬、影君かと思ってしまった。
そんなはずはない。表情には弱々しさも翳りもなく、森田君だ、と思い直す。
目が合わさったまま、逸らすタイミングを失ってしまっていたら、彼は、ゆっくりと微かに首を横に振った。
「……っ、」
それは、まるで、大丈夫だ、と言われているみたいな動きで。
君のせいじゃない。
そういう意味がこもっているように私には思えてしまって。