きみは溶けて、ここにいて【完】
なるべく息を潜めて、花壇の水やりを続ける。
しばらくすると、笑い声が止み、人の声も聞こえなくなった。ホッとして、恐る恐る、顔をあげる。
もう、誰もベランダにはいないのだと思っていた。
それなのに、そこには、一人だけまだ残っていた。
円の真ん中で笑うかっこいい人。
さっきは誰とも目が合わなかったのに、今はしっかりと、その一人と視線が絡む。
森田君が、ベランダに肘をついて、じっと私を見下ろしている。
目が合った瞬間に、彼の口角が綺麗にあがる。
それで、よ、という風に、手を振ってきたものだから、驚いた。
そんなことを、されたことは今までに一度もない。どうしよう。無視をするのは絶対にだめだ。
だけど、軽々しく手を振り返すのも、なんだかおかしな気がする。
迷った末に、おずおずと頭を下げて、もう一度見上げたら、森田君の唇が、ゆっくりと動く。
その動きを、しっかりと読み取れてしまったから、私は、頷くしかなかった。