きみは溶けて、ここにいて【完】
さっきまで後悔とか不安とか灰色の気持ちばかりが蠢いていた自分の中に、どうして、とただ単純な疑問が生まれる。
私が頷いたらすぐに、森田君は、ベランダから消えてしまった。
“そこで、まっていて”
確かに、森田君は、そう言ったのだと思う。
そこ、とは、恐らく、花壇のこと。
ついさっきまで一緒にいた男の子たちはいいのだろうか。影君に何かあったのだろうか。
ふつふつと心配事が湧き出てくる中で、とにかく、水やりは終わらせてしまおうと思って、急いで残りの花壇に水をやる。
降り注ぐ水に、小さく揺れる花びらを見つめながら、身体が強張っていくのを感じていた。
水やりをすませてからも、まっていてと言われたから、空になったジョウロをしまいに倉庫には行けず、しばらく私は、なるべく人目に付かない中庭の隅でじっとしていた。
「文子さん」
不意に、後ろから名前を呼ばれ、身体が跳ねる。
“文子さん”、そう呼ぶのは、森田君じゃない。