きみは溶けて、ここにいて【完】
まさか、と思って、振り返ると、中庭に隣接する教室の窓から、さっきまでベランダにいた人が顔をのぞかせていた。
文子さん、と言った。
だけど、目を細めて、にこにこと笑うその表情は、どう考えても森田君のもので。
なんて返事をすればいいのか分からず、中途半端に振りかえったまま、おどおどとしてしまっていたら、「嘘。保志さん」と、彼は窓に手をついて身を乗り出すような体勢をとった。
「文子さんって呼んだら、保志さんがどんな反応するのか見たかったから」
「………ごめんね。気の利いた反応じゃなかったね」
「いや、俺が、からかっただけじゃん」
「………」
「……影と、仲良くやってくれて、ありがと。俺が頼んだことだけど、まさか、本当に、仲良くしてくれると思わなかったから、正直言って、ちょっとびっくりしてる」
それを改めて言いに来てくれたのだろうか。
「ううん。私の方こそ。……ありがとう」と返事をしたら、森田君が手招きをした。
恐る恐る、ほんの少しだけ、校舎に近づく。そうしたら、森田君はちょっとだけ声を潜めるようにして、「仕方ないよ」と言った。