きみは溶けて、ここにいて【完】
だけど、それよりも、怖かったのは、影君のことだった。
私の書いた手紙の内容のどこかに影君を傷つける要素が含まれていたのではないか、という恐れが、返事の届かない日々の中で膨らんでいった。
手紙は、口から出す言葉よりも、たくさん時間をかけられる分、いいのだと思っていた。
だけど、一度、自分の外に出したものを戻すことができないという意味では、書く言葉も話す言葉も同じなんだ。
一度人に与えてしまったものは、もう自分のものではない。後で、やっぱり閉まっておけばよかったと思っても遅い。
それが、言葉というものだ。
返事がないことに、不安と後悔が募っていく。
朝、封筒が入っていることを願いながら、下駄箱を開いて、ただ靴だけが並べられてだけの空間に、落胆する。
もう来ないのだろうか、と思っていた。
たったの一週間届かないだけで、大げさかもしれないけれど、今まで影君からの返事が二日以上あいたことがなかったのだ。
心の距離を、ほんの少し、近づけたから、こうなった。
そうやって悲劇の真ん中にいるような気分にさえなりかけていたけれど、最後に私が森田君の下駄箱に手紙を出してから十五日後の朝、ようやく、影君からの返事がきて、私は思わず、誰に見られているか分からないのに、頬をゆるめてしまった。
だけど、中身を見るまでは、分からない。
そう思い直して、急いでトイレに向かって、一番奥の個室で手紙を開いた。
久しぶりの影君の文字を目に映した瞬間、心臓が、フラットかシャープか分からぬ音符を鳴らした。