きみは溶けて、ここにいて【完】
もう放課後だ。
部活動をしている人以外に校舎には、人がいない。
もしも、森田君と二人でいるところなんて見られたら、教室の透明な波紋を乱すことになってしまう。それで、誰かに悪意を向けられてしまうのが、怖かった。
「俺の中に、もう一人の俺がいるんだ」
森田君が、話し出す。綺麗な横顔を、ちらと確認して、ぎこちない相槌を返す。
「そいつが、寂しそうだから、保志さんが友達になってくれたらと思う」
自分の中に、もう一人いるとはどういう感覚なのだろうか。“そいつ”なんて、まるで、別の人のように森田君は表現している。
多重人格? 確か、なんだっけ。解離性同一障害と言ったような気がする。中学生の頃、興味があって、精神障害についてほんの少し調べたことがあった。けれど、そうやって病名を尋ねることで、森田君に嫌な思いをさせてしまったら、最悪だ。私は、質問をすりかえることにした。
「……それは、森田君ではないの?」
「うん。俺だけど、俺じゃない。違うんだ。俺は、ようって呼んでる」
それは、森田君じゃないか。そう私が思ってしまったことが、森田君に伝わったのだろう。彼は首を、微かに横へ振った。
「影と書いて、よう。俺は、太陽のほうの、よう」
「……おんなじ読み方なんだね」
「紛らわしくてごめんね。わけわかんないよな」
「……ううん」
正直なところ、名前以前に、何もかも訳が分かっていない。だけど、全て信じたふりをしなければならない、と漠然と思っていた。
こんなときでも、私は傷つけるという行為を排除することに必死だ。自分を守るため。情けない自己防衛を、し続けている。