きみは溶けて、ここにいて【完】




一度、夜のことは忘れようと決めて、「ごめんね」と返事をしたら、「どうしたの?」と久美ちゃんは首を傾げた。



「空気が、……美味しいなあって」



 不自然な返事ではないはずだ。誤魔化すための嘘に罪悪感を覚えることが、いつの間にかなくなっていた。

自衛のしすぎなのだと思う。


感覚って、守れば守るほど、耐性がなくなって、次第に死んでいく。



 へらりと笑ったら、久美ちゃんは、「嫌いな虫がいるからプラマイマイナスだけどね」と言って、溜息を吐いた。


「私たち、オリエンテーリングもその後のカレー作りも、一緒の班になれなかったね」

「そうだね。……残念」

「まっ、仕方ないか。くじ引きだし。私、鮫島君となったらどうしようって、ドキドキしてた。気まずいじゃんねえ」



 どう答えればいいか分からなくて、頷くだけ頷く。


 最近はもう、久美ちゃんは、鮫島君のことで悲しい顔もしなくなった。

きゅるんとしたツインテールは相変わらず。

今日は林間学校だから特別なのか、洒落たワインレッドのリボンで髪を結んでいる。


可愛くて、久美ちゃんによく似合っているけれど、それをどのタイミングで伝えればいいのか分からなくて、結局言えていなかった。



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