Don't let me go, Prince!
教えてくれる気の無さそうな彼の言葉に、私はつい頬を膨らませてしまう。私はそれを運転している弥生さんには見られていないのだと思っていたのだけれど……
「着きましたよ。渚さん、そんなに拗ねないで機嫌を直してください。」
しっかりと弥生さんにその姿を見られてしまったようで……子供っぽい女だと思われたわよね、きっと。
「拗ねてなんていませんから。」
もう、そう言い訳するので精一杯。ああ、ますます子供みたいだわ。自己嫌悪に陥りながら前を歩く弥生さんの後をトボトボとついていく。
弥生さんが連れて来てくれたのはログハウスみたいな木のぬくもり溢れるお店。中に飾られた観葉植物や小物が可愛くてキョロキョロしてしまう。
弥生さんは知人らしき男性と言葉を交わすと、私を奥の席へと案内してくれた。
「凄く、雰囲気のいいお店ですね。まるで、森の隠れ家みたい。」
「森の隠れ家、ですか。そうですね、私も落ち着いた雰囲気が気に入っているんです。」
弥生さんも店内を見渡して、フッと息を吐いた。そっか、弥生さんはここによく来ているのね。
「さっきの男性が弥生さんのお知り合いですか?」
「ええ、この店のシェフで私の大学時代の知人です。彼だけは毎年私に年賀状をくれて……だから今でもこうして店に来ます。」
「そう、なんですか。」
それはお友達とは違うのかな?そう思ったけれど、弥生さんには何かわけがありそうで、深く聞くことは出来なかった。
「信じられない、《《あの》》弥生が、こんな美人を連れてきてる……!」
シェフの格好をした先程の男性に、いきなり顔を覗き込まれて私は思わずのけ反った。