Don't let me go, Prince!
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「ああ、この席みたいね。弥生さん窓側どうぞ?」
久しぶりに乗る新幹線に心を躍らせながらも、子供っぽいと弥生さんに笑われないように気を付けて行動している。
今回の旅行で弥生さんが提案してくれたのは個室の露天風呂と美味しい料理、後は「散策でもして二人の時間をゆっくり過ごしましょう」ですって。
ありきたりですみません、なんて謝られたけれど私はそれだけでも十分嬉しいわ。
弥生さんとの新婚旅行は海外でとても贅沢なものだったけれど、やはり寂しかった思い出しかなくて……
それよりも近場でもこうして和やかに話しながら過ごせる、今の方がずっといいと思うの。
「渚が窓側でなくていいのですか?」
「いいの、私はこっちで。せっかくの旅行だから弥生さんにもゆっくりして欲しいの。」
なんてね、本当は周りの女性たちが弥生さんに見惚れているから隠そうとしているの。背が高くて綺麗な顔の弥生さんはどこに行っても目立ってしまう。
弥生さんは分かってないでしょうけれど、いつ女性が話しかけてこないかと私はハラハラしっぱなしなのよ?
「せっかくだし駅弁も食べてみたいわね、車内販売で買えるかしら?」
「本当に渚は楽しそうですね。目的地までまだまだ時間がかかりますから、あまりはしゃいでいると疲れますよ?」
弥生さんには私がはしゃいでいる事がバレバレだったみたい。
だって想い合えて初めての二人での旅行なのよ?弥生さんだってもっと嬉しそうにしてくれればいいのに。
「弥生さんはいつも落ち着いていて狡いわ。いつも私ばっかり……」
「そんな事はありません、私だって今はかなりドキドキしているんですから。ほら……」
弥生さんに手を掴まれて、彼の胸にあてられる。ドキドキと少し早い鼓動を手に感じて、彼も本当はかなりこの旅行を楽しみにしていたのが分かる。