Don't let me go, Prince!



「そんな無責任な!自分の我が儘ばかりで弥生さん達を追い出したって言うの!?」

 私は信じられなかった。いくら愛する人と自分が別れさせられたからって、他の人に何をしても良いというの?妻と自分の子でしょう?

「義母を追い出した形で父の妻になった母には帰るところが無かったのです。そんな母と私を哀れに思った祖父が、この部屋を慰謝料代わりに母に渡したそうです。このホテルは祖父の持ち物だったそうなので。」

 そんな……この場所で過ごしたって言うのはそういう事だったの?弥生さんにとってこの場所はお母様と住んでいた家だったという事なの?

 酷すぎる話だ。お義父さんは酔った勢いで相手を妊娠させて結婚したのに、離婚した前妻とも子供を作った。そして前妻とその子と暮らすために、弥生さん達を追い出したというの?

 パッと見はとても真面目そうな雰囲気の男性なのにまさかそんな事をしていたとは。

 そんな人から早く子供を作れと言われていたなんて。この事実を先に知っていたならば、さぞ嫌な気分になってしまっただろう。苦虫を噛むような気分になる。

「父に言われたことを渚が気にする必要はありません。父は自分の行動を棚に上げ、義母と父を離婚させた祖母が全て悪いと思っているだけなんです。神無さえ先に生まれていればこんな事にはならなかった、と。」

「順番の問題じゃないわ!信じられない、お義父さんは全く悪くないとでもいうの?」

 思わず大きな声を出してしまった。辛いのも悲しいのも弥生さんに決まってるのに。

 ここで、この場所で弥生さんは大きくなったって言うの?

「母は病気であまり仕事も出来なくなっていましたが、ここなら従業員が色々見てくれましたしね。それに父は大学までの学費は出してくれました。……正直な事を言うと、私は父には何の感情も持っていません。」

 本当に?ではどうして家族の話になるといつも以上に無表情になるの?自分の感情を誰にも知られたくないって……そんな風に見えるのよ。


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