Don't let me go, Prince!
「渚ならばそう言ってくれるかもしれないとも思いました。ですがあの屋敷で過ごす貴女は……いえ、私にそれだけ渚を信じる勇気が無かったんです。すみません。」
私が何?言いたいことがあるのならば言ってよ、そうでなきゃ私はいつまでも弥生さんの事を理解する事が出来ないわ。
そう言いたいけれど言えない。この言葉を言えば、今はきっと弥生さんを追い詰めるだけになりそうで。私はお義父さんへの質問は止めて、少しだけ話題を変えることにした。
「弥生さんが《《今》》はお義父さんに何も期待していない事は分かったわ。じゃあお義母さんの事はどう思ってたの?亡くなるまでずっと一緒に住んでいたのでしょう?」
「……母の事は……」
お義母さんへの感情を聞いた途端、はっきりと見て取れるほどに弥生さんの表情は変わった。小さく震える彼の唇は、続きの言葉を発しようとしない。
「弥生……さん?」
私は少し心配になり、掴んでいた弥生さんの手首を振る。この様子から予想すると、彼とお母さんの関係もあまり良好とはいえないものだったのかもしれない。
「私は……」
【ピピッ、ピピッ】
備え付けられているデジタル時計が0時を知らせるアラームを鳴らす。何のためにこんな時間に?
「渚、もうこんな時間になりましたね。今日はもうここまでにしましょう?」
「え?弥生さん?」
ここからが大事なような気がしたけれど……アラームで正気に戻ったのかさっきまでの余裕の無さそうな表情は綺麗に消えていた。しかも、こんな一方的に話を終わりにしてしまうの?