Don't let me go, Prince!
そう言って着替えを持って弥生さんはバスルームへと行ってしまった。私は1つしか無いベッドに倒れ込みそっと目を閉じる。
このベッドはダブルサイズだけれど、まさかここに二人で眠るのかしら?結婚してから一度も一つのベッドで眠りについたことなんて無い。もしこのベッドで二人触れてしまえる距離で眠るのだとしたら……考えると緊張で胸が痛い。
ソファーを見てみると、私の身長ならば眠れない事も無さそう。毛布を一枚借りてあっちで寝よう。そう決めると毛布を体に巻いてソファーの上で身体を丸める。
浴室からはシャワーの音が聞こえてくる。
今日は本当にいろんなことがあったわ。たくさん弥生さんと話したし、何度も彼の手が私に触れた。もしかしたら明日起きたら全部夢なのかもしれない。
疲れからか段々瞼が重くなる。
「……ぎさ、渚。こんなところで寝る事は許可していませんよ。……全く。」
薄く目を開けるとぼんやりした視界に弥生さんの顔が……ふふふ、と思わず笑ってしまうと弥生さんは困ったような顔をしてるみたい。
どうしてか身体がフワフワ浮いてるような感じがして、気持ちが良いの。柔らかい場所に降ろされてたかと思うとふわりと私の身体に毛布が掛けられる。
かけられた毛布の中、すぐ隣に誰かの体温を感じる。その誰かはその腕で優しく私を抱きしめてくれる。もの凄く心地よくて……これが弥生さんだったなら、なんて考える。
「弥生さぁん……?」
きっと、これは夢だから少しくらい甘えても良いはずだ。私はその大きな胸に顔を埋めた。ああ、やっぱり弥生さんの香りだ。この爽やかな香りは心が落ち着くわ。
「渚は眠っている時まで私を困らせるのですね。」
そんな言葉とため息が聞こえてきた気がするけれど、私はその胸に顔を埋めたまま深い眠りへと落ちて行った。