Don't let me go, Prince!

「渚、開けますよ?」

 ……え?聞こえてきたのは朝仕事に出たはずの旦那様の声。おかしいわ、デジタル時計はまだ14時と表示されていたはず。驚いて後退ると開錠する音が聞こえてドアが開かれる。

「あぁ……」

 弥生さんの隣には私が頼んだものよりも高価そうなフィットネスバイク。そして、それを運ぶための従業員が二名。この旦那様には冗談は全く通じないのね?

「運動不足を解消したいと聞きましたが、これで良かったですか?」

 私の言葉を信じて疑わない弥生さんの目を見るのが少し辛いわ。確かにここに閉じ籠っていたら運動不足にもなってしまうかもしれないけれど。

「い、いいんじゃないかしら?弥生さんがなんとも思わないのならば……」

 私がそう言うと従業員の2人がフィットネスバイクを室内へと入れる。ごめんなさい、余計な仕事を増やしてしまって。

 そんなに広くない室内に大きめのフィットネスバイク。もう自分の言葉を後悔してもどうにもならないわ。

「我が儘だって、怒ってもいいのよ?」

 いいえ、少しだけ怒ってくれるんじゃないかってどこかで期待していたのかも。怒った顔をちょっとだけ見たかったのか見しれない。

「何故ですか?運動が出来ない事を私も考えていませんでした、すみません。」

 謝られて、何も言えなくなる。私の思いが通じないもどかしさが、グルグル頭と心をかき混ぜていくようで。

「私は仕事に戻ります。組み立ては従業員に任せていいですよ。」
 
 用件を済ませると弥生さんはすぐにドアから出て行ってしまった。わざわざ来てくれたのはとても嬉しい。
 だけど、私の我が儘をすべて受け入れて欲しい訳じゃないのよ……  



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